パンの香りと小さな謎。Audibleで出会った、やさしい物語

日記

通勤時間や、家でひと息つきたい夜に、Audibleで物語を聴くのが習慣になっている。今回選んだのは、謎の香りはパン屋から

「このミステリーがすごい」大賞作品と聞いて、少し身構えながら再生ボタンを押した。

物語の舞台は、パン屋「Nostimo(ノスティモ)」。そこでアルバイトをしている、漫画家志望の主人公・小春が、身の回りで起こる小さな出来事や違和感を、静かに解きほぐしていくストーリーだ。

大事件が起こるわけではないけれど、その分、日常の空気感がとても丁寧に描かれている。

パン屋に漂う香り、カウンター越しの会話、何気ない仕草。Audibleで聴いていると、まるで自分も店の片隅に立っているような気分になる。音だけなのに、焼きたてのパンの温度まで想像できるのが不思議だった。

物語は全部で五つ。どれも派手さはないが、聴き終えるたびに、心の中に小さな灯りがともるような感覚が残る。

小春という主人公も、どこか身近で親しみやすい存在だ。漫画家を目指しながら、目の前の現実と向き合う姿に、少しだけ自分を重ねてしまった。

謎を解く、というよりも、人の気持ちにそっと気づく。そんな距離感が、この作品のいちばんの魅力なのかもしれない。

「正しさ」よりも「やさしさ」が前に出てくるミステリーで、聴いていてとても穏やかな気持ちになれた。

特に印象に残ったのは、最後のカレーパンの話だ。詳しいことは書かないが、聴き終わった直後、なぜか無性にカレーパンが食べたくなった。

それも、凝ったものではなく、昔からあるような、どこか懐かしい味のカレーパン。

年齢を重ねるにつれて、「懐かしい」と感じる味や香りが増えてきた気がする。子どもの頃に通ったパン屋、揚げたてを紙袋に入れてもらった記憶。

この物語は、そんな記憶をそっと呼び起こしてくれる。

懐かしむことができる味があるというのは、それだけで少し豊かなことだと思う。忙しい毎日の中で、忘れかけていた感覚を、パンの香りと一緒に思い出させてくれた。

ミステリーとして構えず、気軽に聴ける一冊。疲れているときや、何も考えずに物語に身を委ねたいときに、ちょうどいい作品だった。

Audibleを止めたあと、コンビニで焼きカレーパンを探してしまったのは、きっと自然な流れだったのだと思う。

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