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「推し」の熱狂はどこから生まれるのか──Audibleで聴いた『イン・ザ・メガチャージ』感想

audible感想

導入

毎日の通勤時間、私はAudibleでさまざまな小説を聴いています。普段はミステリーや心温まる物語を選ぶことが多いのですが、今回は以前から気になっていた作品を聴いてみました。

それが朝井リョウさんの『イン・ザ・メガチャージ』です。

第23回本屋大賞作品として話題になっていたこともあり、書店やインターネットで何度も目にしていました。朝井リョウさんといえば、若者たちの価値観や社会の空気感を鋭く切り取る作品で知られています。今回も現代社会を映し出す作品だと聞いていたので、期待しながら再生ボタンを押しました。

聴き終えてまず感じたのは、「これは単なる推し活の物語ではない」ということでした。

現代社会にあふれる熱狂や共感、そして人が何かに夢中になっていく過程を描きながら、その裏側に潜む危うさまでも浮かび上がらせる作品だったように思います。

本文

「推し活」を通して描かれる現代社会

本作では、流行を仕掛ける側の人々、その流れにのめり込む人々、そしてかつて何かに熱狂していた人々が描かれています。

私自身、アイドルやアーティストに強くのめり込んだ経験はありません。しかし、スポーツチームを応援したり、好きな作家の新作を楽しみにしたりする気持ちはよく分かります。

誰かを応援すること自体は決して悪いことではありません。

むしろ人生に彩りを与え、日々の楽しみや生きがいになることもあります。

ところが、この作品を聴いていると、「応援する」という行為がいつの間にか「信じる」という行為へ変化していく様子が見えてきます。

そして、その境界線が意外なほど曖昧であることに気付かされます。

現代ではSNSによって共感が瞬時に広がります。

好きなものを共有し、同じ価値観を持つ仲間とつながることが容易になりました。

一方で、その環境が熱狂を加速させる装置にもなっています。

本作は、そんな現代社会の特徴を巧みに描いているように感じました。

「物語を作る側」の恐ろしさ

この作品を聴いていて特に印象に残ったのは、流行を仕掛ける側の存在です。

商品でも人物でもサービスでも、人は単なる機能だけで動くわけではありません。

そこに物語があるからこそ人は心を動かされます。

企業の広告もそうです。

政治家の演説もそうです。

YouTubeやSNSの発信者もそうです。

私たちは知らず知らずのうちに、作られた物語に触れながら生活しています。

作品の中では、その「物語を作る力」が非常にリアルに描かれていました。

人々が何に共感し、何を求め、どんな言葉に反応するのか。

それを理解したうえで物語が設計されていく様子に、私は少し怖さを感じました。

もちろん現実社会でもマーケティングは必要ですし、魅力を伝える努力は欠かせません。

しかし、人の感情を巧みに操作するような側面があることも否定できません。

作品を聴きながら、「自分は本当に自分の意思で選んでいるのだろうか」と考えさせられました。

新興宗教にも似た構造

さらに印象的だったのは、熱狂が拡大していく過程です。

聴いているうちに私が連想したのは、新興宗教団体へ取り込まれていく人たちの姿でした。

もちろん推し活そのものと宗教を同一視するつもりはありません。

しかし、人が集団の中で共感を重ね、同じ価値観を共有し続けることで視野が狭くなっていく構造には共通点があるように感じました。

最初は軽い興味だったはずなのに、次第にその世界が生活の中心になっていく。

周囲の意見が聞こえなくなる。

違う考え方を持つ人を排除したくなる。

そんな心理の流れが、とてもリアルに描かれていました。

私自身も振り返れば、若い頃には何かに夢中になった経験があります。

趣味でも仕事でも資格試験でも、のめり込んでいる最中は周りが見えなくなることがあります。

その意味では誰にでも起こり得ることなのかもしれません。

だからこそ、この作品には妙な説得力がありました。

SNS時代だからこそ感じるリアリティ

この作品が特に現代的だと感じたのは、SNS時代との相性です。

以前であれば、ある流行が生まれてもその影響範囲には限界がありました。

しかし今は違います。

一人の発信が数万人、数十万人へ広がることも珍しくありません。

アルゴリズムによって興味の近い情報ばかりが表示されるため、自分と同じ考えの人だけに囲まれているような感覚になります。

すると、その価値観が絶対的に正しいものだと思い込んでしまうことがあります。

本作は、その危うさを非常に巧みに表現していました。

私は普段ブログを書いていますが、情報を発信する側にも受け取る側にも責任があることを改めて感じました。

発信者は影響力を持つことを忘れてはいけませんし、受信者も冷静に情報を見極める必要があります。

そんな当たり前のことを改めて考えさせられました。

Audibleで聴いて感じたこと

今回もAudibleで作品を楽しみました。

通勤中や家事の合間など、耳だけで作品世界に触れられるのは本当に便利です。

この作品は登場人物それぞれの考え方や感情の揺れが重要な作品なので、ナレーションによる表現との相性も良かったように思います。

特に人物ごとの温度差や価値観の違いが音声だとより伝わりやすく、物語への没入感を高めてくれました。

気軽に聴き始めた作品でしたが、終わった後もしばらく考え続けてしまうような読後感が残りました。

単純に面白いだけではなく、社会や人間心理について考えるきっかけを与えてくれる作品だったと思います。

まとめ

朝井リョウさんの『イン・ザ・メガチャージ』は、「推し活」という身近なテーマを通じて、人が熱狂する理由や現代社会の危うさを描いた作品でした。

流行を作る人、流行に乗る人、そしてかつて熱狂していた人。

それぞれの立場から描かれる物語は非常にリアルで、時に怖さすら感じます。

特に、共感を生み出すために作られた物語の力や、集団の中で視野が狭くなっていく過程は印象的でした。

SNSが当たり前になった今だからこそ、多くの人の心に響く作品なのではないでしょうか。

推し活をしている人はもちろん、そうでない人にもぜひ触れてみてほしい一冊です。

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