はじめに
通勤時間の楽しみとして続けているAudibleですが、今回聴いたのは逸木裕さんの『虹をまつ彼女』です。
この作品は「横溝正史ミステリ&ホラー大賞」を受賞したデビュー作で、2016年に刊行されました。以前から逸木裕作品は何作か読んでいましたが、本作はその原点ともいえる作品です。
聴き始めた当初は「AIによって故人を再現する」という近未来的な設定に興味を引かれました。しかし物語が進むにつれ、単なるSFミステリーではなく、人間の執着や孤独、そして失われた存在を追い求める心を描いた作品だと感じました。
今回はAudibleで聴いた『虹をまつ彼女』の感想をまとめてみたいと思います。
AIで故人を再現するプロジェクト
物語の舞台は2020年。
主人公の工藤は、AI技術によって故人を再現するプロジェクトに関わっています。
そのモデルとなるのが、水科晴という女性です。
彼女はドローンによる大規模な事件を起こし、その後に自ら命を絶った人物として知られています。
現実でもAI技術の進歩は著しく、最近では音声や映像、文章の癖まで再現できるようになってきました。そのため、この作品で描かれる世界は決して遠い未来の話ではなく、むしろ今だからこそリアリティを感じる設定でした。
「もし亡くなった人をAIで再現できるとしたら」
そんな問いを読者に投げかけながら物語は進んでいきます。
ミステリー作品でありながら、テクノロジーと人間の感情を絡めたテーマが非常に興味深く感じられました。
工藤という主人公の危うさ
この作品を聴いていて特に印象的だったのは主人公の工藤です。
一般的なミステリーの主人公であれば、冷静に事件を追いかける人物が多い印象があります。しかし工藤は少し違います。
彼は常に鬱積した感情を抱えており、その感情が行動の原動力になっています。
AIの精度を高めるため、水科晴という人物をより深く理解しようとしますが、その執着は次第に常軌を逸していきます。
危険な目に遭いながらも調査をやめようとせず、命を狙われる状況になっても前進し続けます。
聴いているこちらとしては、
「そこまで追いかけるのか」
「もうやめた方がいいのでは」
と思う場面も少なくありませんでした。
しかし、その危うさこそが作品の魅力でもあります。
工藤自身が抱える欠落や孤独が、水科晴への執着につながっているように感じられ、次第に目が離せなくなっていきました。
主人公の破壊的ともいえる行動が物語全体の緊張感を高めており、自然と続きが気になる展開になっています。
水科晴という謎めいた存在
物語の中心にいる水科晴も非常に魅力的なキャラクターです。
すでに故人でありながら、多くの人に影響を与え続けています。
彼女はいったい何を考え、なぜ事件を起こしたのか。
そして彼女の周囲で語られる「雨」の存在とは何なのか。
工藤はその謎を追い続けます。
作品を聴いていると、水科晴という人物像が少しずつ浮かび上がってきますが、同時に新たな謎も増えていきます。
そのバランスが絶妙で、最後まで飽きることなく楽しめました。
特に「雨」にまつわる真相は物語全体の重要な鍵となっており、終盤に向かうにつれて緊張感が高まっていきます。
単なる事件の真相解明だけでなく、人と人との関係性や感情が丁寧に描かれている点も印象的でした。
探偵・みどりの登場がうれしかった
個人的にうれしかったのは、作中に登場する探偵の「みどり」です。
私は以前、逸木裕さんの作品である『彼女が探偵でなければ』や『五つの季節に探偵は』を読んでいました。
そのため、みどりが登場した瞬間に思わずニヤリとしてしまいました。
そして本作を聴きながら、
「このキャラクターはデビュー作の時点ですでに存在していたのか」
という発見がありました。
後の作品で活躍する人物の原点を見ることができたようで、ファンとしてはとても興味深かったです。
作家のデビュー作を読むと、後の作品につながる要素が見つかることがありますが、本作にもその面白さがありました。
逸木裕作品をすでに読んでいる人であれば、より楽しめるポイントの一つだと思います。
Audibleとの相性も良かった作品
今回も通勤時間を利用してAudibleで聴きました。
『虹をまつ彼女』は登場人物の心理描写が非常に重要な作品です。
そのため、ナレーターの朗読によって感情の揺れが伝わりやすく、物語の世界に入り込みやすかったように感じます。
特に工藤の焦燥感や執着、水科晴を取り巻く不穏な空気などは音声で聴くことでより印象的になりました。
ミステリー作品は文章で読むのも楽しいですが、Audibleで聴くことで臨場感が増す作品もあります。
本作はまさにその一冊でした。
通勤中や散歩中でも自然と物語に引き込まれ、続きが気になってしまう作品だったと思います。
まとめ
『虹をまつ彼女』は、AIによって故人を再現するという先進的なテーマを扱いながら、人間の執着や孤独、喪失感を描いたミステリー作品でした。
主人公・工藤の危うさと破壊的な行動には少し怖さも感じましたが、その異常ともいえる執着が物語を強く牽引しています。
また、水科晴という謎めいた存在や、「雨」に隠された真実も最後まで読者を惹きつけます。
さらに、後の作品で活躍する探偵・みどりの登場もファンにとっては見逃せないポイントでした。
デビュー作でありながら完成度が高く、横溝正史ミステリ&ホラー大賞受賞作という評価にも納得の一冊です。
AIが身近になりつつある今だからこそ、より深く考えさせられる作品でもありました。
ミステリーが好きな方はもちろん、AIや近未来のテーマに興味がある方にもおすすめしたい作品です。
Audibleで気軽に楽しめるので、興味のある方はぜひ聴いてみてください。


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