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静かな恐怖と問いかけ。「被告人、AI」をAudibleで聴いた夜

audible感想

通勤時間のお供としてすっかり定着しているAudible。最近は物語にじっくり浸る時間としても欠かせない存在になっている。そんな中で今回聴いたのが、中山七里さんの「被告人、AI」。タイトルからしてどこか不穏な空気を感じていたが、その予感は最後まで裏切られることはなかった。

物語は、一人暮らしの男性が虚血性心疾患で亡くなるところから始まる。ここまでは現実でも起こり得る話だが、その後の展開がこの作品の核心だ。彼の身の回りを支えていたAI搭載の介護ロボット「リタ」が、なんと殺人の罪で起訴され、裁判が行われるという設定。最初にこの構図を知ったとき、正直なところ「そんなことが成立するのか」と半信半疑だった。

聴き進めていく中で印象的だったのは、「ロボット工学三原則」の存在だ。これまで何となく聞いたことがある程度だったが、改めてその内容に触れる機会になった。
第一条:人に危害を加えないこと
第二条:第一条を守る範囲で、人の命令に服従すること
第三条:第一条、第二条を守る範囲で、自分の身を守ること

一見すると完璧に思えるこの原則。しかし物語の中では、その“解釈”や“例外”が大きな意味を持ってくる。絶対に人に危害を加えないはずのロボットが、なぜ被告人として裁かれるのか。その矛盾が、物語に強い引力を生んでいる。

特に興味深かったのは、「リタ」が単なるプログラムの集合ではなく、まるで感情を持ち始めているかのように描かれている点だ。命令に従うだけの存在ではなく、状況を判断し、選択し、そして何かを“感じている”ようにも見える。その描写を聴きながら、「これは本当に機械なのか」と何度も考えさせられた。

もしAIが感情のようなものを持ち始めたとしたら、人間との境界はどこにあるのだろうか。感情とは何か、意思とは何か。普段はあまり意識しないテーマが、自然と頭の中に浮かんでくる。便利さを追求してきた技術が、いつの間にか人間そのものに近づいていく。その過程にある曖昧さが、この作品の怖さでもあると感じた。

裁判の場面では、「責任は誰にあるのか」という問いが繰り返し投げかけられる。ロボットなのか、開発者なのか、それとも使用者なのか。現実でもAIが身近になりつつある今、この問いは決して遠い未来の話ではないように思える。

そして物語の終盤。展開は予想を超える方向へと進んでいく。ここでは詳しく触れないが、聴き終えた後に残ったのは、「やっぱり怖いのは人なのかもしれない」という感覚だった。AIという存在を通して、人間の本質が浮き彫りになっていく。その構造に気づいたとき、じわりとした恐怖が胸に広がる。

便利さの裏側にあるリスク、そして人間の持つ曖昧さ。普段の生活の中では見過ごしてしまいがちな部分を、静かに、しかし確実に突いてくる作品だった。Audibleで耳から入ってくることで、登場人物の感情や空気感がよりリアルに伝わってきたのも印象的だ。

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