~偏見や同調圧力を乗り越えて、自分らしく生きる~
最近オーディブルで聴いた作品、垣谷美雨さんの『あきらめません!』。
タイトルの通り、「あきらめない」という強い言葉が最後まで胸に残りました。
主人公は定年後、夫の故郷に移り住んだ女性。
長年勤め上げてようやく肩の荷を下ろしたはずなのに、そこで待っていたのは、昔ながらの慣習と偏見に満ちた地域社会でした。
「女性はこうあるべき」「年配者の言うことは絶対」――そんな空気が当たり前のように流れる中で、彼女は次第に違和感を覚えていきます。
最初は戸惑い、波風を立てないようにと我慢していた彼女が、少しずつ変わっていく。
古い常識に疑問を持ち、自分の意見を口にし、ついには地域を動かす立場にまで成長していく過程は、聴いていて何度も心を打たれました。
年齢や立場を理由に引き下がらず、「自分の思いを伝える勇気」を持つ――その姿がとても眩しかったです。
この作品の魅力は、単に「強い女性の物語」ではないところ。
彼女自身も葛藤し、時にくじけそうになりながら、周囲の人々との関わりの中で少しずつ前に進んでいく。
そして、その変化が周囲の人の心にも伝わり、古い価値観が少しずつほぐれていく。
偏見や同調圧力という“見えない壁”を、真っ向から壊すのではなく、人の温かさで溶かしていくような描き方が印象的でした。
ナレーターの早水リサさんの声も、穏やかで芯があり、登場人物の感情を丁寧に表現してくれます。
特に、主人公が心の中で葛藤するシーンでは、声の震えや間の取り方が絶妙で、物語がよりリアルに響きました。
耳から聴くことで、登場人物の感情がすっと胸に入ってくる感覚があり、オーディブルの良さを改めて感じました。
聴き終えたあとに残るのは、「人はいつからでも変われる」という希望。
世代や環境に関係なく、勇気を持って一歩を踏み出せば、きっと何かが動き出す。
そんな前向きな力を与えてくれる作品でした。
偏見や同調圧力に息苦しさを感じている人、そして自分の思いを押し込めてしまいがちな人にこそ、聴いてほしい一作です。
静かな感動と、小さな勇気をくれる時間でした。
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