Audible感想「銀河ホテルの居候 また虹がかかる日に」
通勤時間のお供として、最近すっかり習慣になっているAudible。耳で本を聴くというスタイルにもすっかり慣れてきて、物語の世界にゆっくり入り込む時間が日々の楽しみになっている。今回聴いたのは、ほしおさなえさんの作品『銀河ホテルの居候 また虹がかかる日に』だった。
物語の舞台は、南軽井沢にある架空のホテル「銀河ホテル」。英国風の建物にイングリッシュガーデンが広がる、どこか時間の流れがゆったりとしているようなホテルだ。そんなホテルの中に「手紙室」という場所があり、そこではホテルの居候でもある苅部室長が手紙を書くワークショップを開いている。
この「手紙室」という設定が、とても印象的だった。普段の生活の中で、誰かに手紙を書く機会はほとんどなくなってしまった。メールやメッセージアプリで簡単に連絡が取れる時代だからこそ、手紙という存在が少し特別なもののように感じられる。そんな場所を舞台にした物語というだけで、どこか静かな温かさが漂っている。
物語は、ホテル創業家の一族の青年が東京で働いているところから始まる。いわゆるブラック企業に勤め、精神的にも肉体的にも追い詰められていく日々。ある日、駅のホームで倒れ込むように落ちてしまい、病院に運ばれてしまう。そこで会社が倒産してしまったことを知るという、なかなか重たい始まり方だ。
社会の中で頑張ってきた人が、知らないうちに心と体をすり減らしてしまう。そんな状況は、現実の社会でも決して珍しくないように思う。だからこそ、この青年の状況には、どこか現実味があった。
退院後、彼は傷ついた心を癒やすために実家へ戻る。そして南軽井沢にある銀河ホテルで手伝いをすることになる。最初は戸惑いながらの生活だったが、ホテルの人々や訪れる人たちとの関わりの中で、少しずつ心がほどけていく。
その中で出会うのが、「手紙室」で行われているワークショップだった。
苅部室長が主催するこのワークショップでは、参加者がそれぞれ誰かに向けて手紙を書く。恋人へ、家族へ、昔の友人へ、あるいはもう会えない人へ。手紙を書くという行為を通して、自分の心の中を整理していくような時間が流れていく。
このワークショップに関わる中で、青年自身も少しずつ変わっていく。そして物語の中では、さまざまな登場人物がそれぞれの思いを手紙に込めていく。誰かを思う気持ち、言葉にできなかった後悔、伝えたかった感謝。そうした感情が丁寧に描かれていて、聴いているこちらの心にも静かに届いてくる。
特に印象的だったのは、「手紙を書く」という行為そのものが、人の心を整える時間になっていることだった。言葉を選びながら相手を思い浮かべる。その過程の中で、自分の気持ちにも気づいていく。そんな静かな時間が、この物語には流れている。
Audibleで聴いていると、語りの声の落ち着いたトーンも相まって、まるで銀河ホテルの庭を散歩しているような気分になる瞬間があった。イングリッシュガーデンの緑や、静かなホテルの廊下、手紙室の穏やかな空気が自然と頭の中に浮かんでくる。
物語を聴き終わったとき、ふと思ったのは「こんなホテルが本当にあったら行ってみたい」ということだった。忙しい日常から少し離れて、誰かに手紙を書く時間を持つ。そんな場所が現実にあったら、きっと多くの人の心を少し軽くしてくれるのではないかと思う。
この作品は、大きな事件が起こるような派手な物語ではない。けれど、人が人を思う気持ちや、少しずつ前を向いていく過程が丁寧に描かれていて、静かな余韻が残る作品だった。
通勤電車の中で聴きながら、少しだけ心が穏やかになる時間だった。Audibleでの読書は、忙しい毎日の中でもこうした物語に触れられるのが魅力だと改めて感じる。
そして、もし誰かに手紙を書くとしたら、誰に書くだろうか。そんなことを考えながら、次のAudible作品を探してみようと思う。


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