Audibleで聴く重厚な物語──『暁星』感想と静かな余韻

日記

今回のAudibleの一冊は、暁星。作者は**湊かなえ**さん。通勤時間に少しずつ聴き進めていたが、内容が重く、そして現実と重なる部分が多く、思考が自然と深くなっていく作品だった。

物語の発端は、大臣が刺殺されるという衝撃的な事件から始まる。政治家が命を落とすという設定だけでも緊張感があるが、その背景に宗教が絡み、結果として一つの家庭が崩壊していったという構図が提示される。どうしても、数年前に現実で起きた元首相暗殺事件を想起させる内容であり、フィクションでありながら現実と地続きの感覚を覚えた。

物語は、事件を起こした受刑者の獄中からの手記という形で進んでいく。なぜ刺殺に至ったのか、どのような経緯で刃物を手に取るまでに至ったのかが、淡々と、しかし抑制の効いた筆致で語られていく。感情を爆発させるような描写ではなく、むしろ冷静であるがゆえに、聞き手であるこちらの想像力を強く刺激する構成だった。

受刑者「暁」の生い立ちが語られる場面は特に印象的だった。家庭環境、親との関係、宗教との出会い。そのどれもが少しずつ歪みを蓄積させ、やがて取り返しのつかない結果へとつながっていく。誰か一人が明確に悪い、という単純な話ではなく、複数の要因が絡み合いながら悲劇が形作られていく様子が、静かに、しかし確実に描かれていた。

物語の後半に入ると、この事件に関する「もう一つのストーリー」が展開される。それまで一本の線で進んでいた視点が変わり、別の立場から同じ事件を見つめ直す構成となり、物語は一気に立体感を増す。点と点だった出来事が線でつながり、さらに別の線と交差していく感覚があり、Audibleで聴いているにもかかわらず、思わず前のめりになってしまった。

タイトルにもなっている「暁星」という言葉、そして作中で象徴的に扱われる「金星」というキーワードが、物語の理解をより深めてくれる。夜明け前にひときわ明るく輝く星である暁星は、希望の象徴とも取れるが、同時に夜と昼の狭間に存在する不安定な存在でもある。その二面性が、登場人物たちの生き方や心情と重なって見えた。

Audibleで聴くことで、文字で読むのとはまた違った印象も受けた。ナレーションの落ち着いた声が、獄中手記という形式とよく合い、淡々と語られる言葉の重みがより強調されていたように思う。感情を煽られすぎず、考える余白を残してくれる点は、通勤時間の「ながら聴き」にも適していた。

聴き終えた後、しばらくの間、現実のニュースと作品の内容が頭の中で重なり続けた。宗教、家庭、孤立、そして暴力。どれも決して他人事ではなく、社会の中に確かに存在している問題だと改めて感じさせられた。フィクションだからこそ、現実を冷静に見つめ直すきっかけを与えてくれる一冊だったと思う。

重いテーマではあるが、静かに考えさせられる作品を求めている人には、Audibleでの「暁星」はおすすめできる。耳で聴きながら、自分自身の価値観や社会との距離感を見つめ直す、そんな時間を与えてくれる作品だった。

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